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女はいつもの橋に急いだ。
―早くしないと遅れてしまう…
しかし、女の前に人が立ちはだかる。
「今夜は生憎の雨ですねぇ。おみのさん」
「千秋ちゃん…」
女はおみので立ちはだかった人は千秋だった。
「こんな夜中に何してるん?」
おみのは少し動揺した声で、千秋に尋ねる。
「それはこちらの言葉でもありますよね?」
千秋はいつもの笑顔でいる。
二人はしばらく無言で雨に打たれる。
先に口を開いたのは、千秋だった。
「…それにしても、まさか貴女が間者だったなんて…。まぁ、だいたい予想はしてたけど」
千秋は脇差しを抜く。
「…あら、人は殺したくないんじゃなかったの?」
「えぇ、私情では。しかし、貴女は壬生浪士組を裏切った。つまり、貴女の存在が浪士組の脅威なんです。…私は浪士組の為なら、貴女を斬ります」
千秋は迷いのない瞳でおみのを見て、構える。
「…そう、それなら私も本気でいくけど…そんな小さな脇差し一本で平気なの?」
おみのはクナイを取り出し、構える。
「ご心配なく。私にとって大刀は少し重いので。脇差しが調度いいんです」
千秋はニヤリと笑う。それにつられて、おみのもニヤリと笑う。
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