第二章

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みんなの知らないこと、私が一番気にしてることを翔は一瞬で見抜いた。 私は無言のまま顔を洗いに行った。 肩を触ってみた。痛みはない、でも、怖い。私には解っているあの痛みはまた必ず私を襲う、今までがそうだったように 洗面所が出てくると翔が待っていた。 「お前の肩本当に治ってるのか」 「今のところは治ってる」 「じゃあ、何で打たないんだ。去年の試合見たときから思ってたんだ。お前のスパイクの威力なら優勝出来たはずだ。他のメンバーだっていい動きしてたし、7割くらいの力しかだしてなかっただろう」 「翔には敵わないな、でも今はこれしか打てないの」 「どうして?」 「もう、5分経ったよ。行こう」 そう言って立ち去ろうとした。 「待てよ、話は終わってないだろう」 真剣な表情で翔が腕を掴んだ。 「痛い、離して」 腕を振り払った。 「故障したことのない翔には解らないよ。怖いの」 「怖い?」 「そう怖いの、あの痛みが、私だって打てるものなら思いっきり打ちたい。全日本にも入りたいよ。でも打てない。何度も何度も病院変えて治ったと診断されて、最初は調子よくいっててもハードな練習を重ねるとまた再発、今度は大丈夫だからと言われてもまた同じことの繰り返し、いつの間にかスパイクの威力を調節するようになった。大好きなバレーが出来なくなることが怖かった。これを見て」 私はTシャツの隙間から肩を見せた。 誰にも見せたことのない、手術や注射の痕だった。
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