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アーヴィンが村を旅立ったのは、翌日のことである。
見送りに集まった村人は、言葉にこそ出さないものの、その表情は不安でいっぱいだった。
それでも、努(つと)めて明るく励ましてくれたので、アーヴィンは少しばかりの勇気を得ることができた。
ただ、その胸のうちでは、見送りに来てくれない母のことがつっかえていた。
そんな気持ちを察したのだろうか。
寡黙な父が、重い口をひらいた。
「母さんのことは、父さんにまかせろ。お前は自分のことだけ考えるんだ。そして、必ず帰ってこい。一人前の男になって、自分の決断が正しかったと証明してみせろ。いいな」
力強い父の言葉に後押しされて、アーヴィン少年は村をでた。
その姿は、森の奥深くへと消えるまで、振り返ることはなかった。
旅立ちの不安と別離の悲しみが息子の頬を濡らしていたことなど、寡黙な父は知るよしもない。
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