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ラヴィーン村の窮状は、幾度となく訴えられている。
村人全員の署名が入った嘆願書を携えた若者が、クロトの街にあるガーディアンエンジェルスの支部を目指して旅立っていった。
村に、支部を置いてもらうためだ。
しかし、嘆願書の多くは、若い命とともにどこかへ消えた。
険しい山々で力尽きてしまったのか、深い谷間に滑り落ちたのか、はたまた亜獣どもの鋭い牙に引き裂かれてしまったのか。
いまとなっては、もうわからない。
それでも、危険な旅路の果て、無事に送り届けられた嘆願書は少なくない。
ただ、担当官がその窮状に目をとおすことはなく、薄暗い書庫の一角に他の嘆願書と一緒に積まれ、身の丈を越える紙の山を築き上げただけだった。
窮状を訴えているのは、ラヴィーン村だけではなかったのだ。
それらすべての要望に応えるなど、不可能である。
担当官は、恵まれない小さな村を少しだけ不憫に思い、クロトの平和に安堵した。
そして、切々と綴られた窮状を書庫の一番奥へとしまい込み続けた。
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