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それからしばらくの間、母はアーヴィンと言葉を交わそうとしなかった。
ただ、時折、なんの前ぶれもなく嗚咽を洩らし、きまって涙を流した。
そのたび、アーヴィンの胸が締め付けられたが、決意が揺らぐことはなかった。
母がようやく口をひらいたのは、アーヴィンが十六才になる日の朝である。
この世界では、十六才になると大人として認められる。
それは、ガーディアンエンジェルスのメンバーとして、ハンターになることを許されるということだ。
朝食のスープを運んできた母に、アーヴィン少年は決意を伝えた。
「俺、必ず戻るから。一人前のガーディアンになって、必ず戻るから」
母は、黙ってスープを差し出した。
「冷めないうちに、お飲みなさい」
そういったきり母はうつむき、コーンスープをじっと見つめた。
「まだ…子どもだと思っていたのに…」
溢れでる感情をこらえているのだろうか。
震える唇から紡がれる言葉は、悲しい色に染まっていた。
「母さんの前では、いつも"僕"っていってくれてたじゃない。それが今日は"俺"。あなたは、いつのまにか大人になってしまったのね…」
震える言葉は尻すぼみに消え入った。
母は、また右手で嗚咽をこらえたが、こぼれ落ちる雫をとめることができず、こがね色のスープに小さな波紋を作った。
「ごめんなさい。別のを持ってくるから…」
そういって母はスープを下げようとしたが、すっと差し出された息子の手が、それを制した。
「いいよ。このままで」
アーヴィンは、こがね色の液体をスプーンですくい、母の悲しみごと飲み干した。
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