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「…人は、希望が絶たれた時、初めて自分の信念を見失う」
「…よく分からない。イルは…何かを失ったことがあるの?」
彼の過去に、何かあったのかもしれない。そう思わせる言葉だったから。
あたしは彼の心を覗こうとしていた。でも、閉ざされた心は、それを拒む。
「…無駄話は終わりだ。今更お前たちの同情を買う気などない。我等の野望を叶えるため、お前を城へ連れて行く」
「……っ…」
人間の顔を覗かせたイルが、再び遠くへ行ってしまった。
「緑の瞳。…豊かな心を持つという、勇気の女神。お前は今、争いのない道を求めているな」
「…えぇ。争いは嫌いなの」
「…豊かな心、か」
イルがふっと笑って。
争いは避けられない…と小さく呟いた。
「…目的は? 世界征服とか、世界滅亡とかじゃないわよね?」
「そんな馬鹿げたことはしない。我等の目的は…ただ一人の男を、殺すこと」
「………」
ドクン、と。
なぜか胸騒ぎがした。
一人の男…。
それが誰なのか、あたしは分かっていたのかもしれない。
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