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騎士を錬金術で閉じ込めてから、ずいぶん時間が経った。生憎時計などというものは持っていないため、どれくらい時間が経ったのかはわからないが。
男は宛てもなく森の中を進んでいた。遠くの光を見つめ、光に吸い寄せられるように光に近づいて行く。
男はこれまでの自分が歩んできた道程を思い出し、考える。
自分は何故ここまで必死に生きているのか、と。
別に、何かを成し遂げたい訳ではない。これと言った生きる目的がある訳でもない。
では何故こんなにも必死に生きているのだろうか。
男は、自身が生まれた時のことを思い出す──。
◆◇◆◇◆◇
男は、ある家の一室で『造られた』。
優秀な、その当時では優秀過ぎるほどの錬金術士が、錬金術の禁忌である人体錬成を行ったのだ。
人体錬成が何故禁忌なのか。それは錬成時の危険もそうだが、何よりの理由は教会の教えに背くからだ。
教会はこの世で最も偉大であり、また最も強大な権力を持つ。
その教会では『生命(いのち)を造ることは神だけの権限であり、また生命を造る事が出来るのは神だけてある』と主張しており、そのため人体錬成は禁忌の錬金術として広まったのである。
教会の教えに背く行為は、自ら死を求めに行くようなものだった。
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