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何故自分は生きているのか。答えのない問題を、それでも悶々と考えていると、微かに怒号とも歓声ともとれる声が聞こえてくる。
その騒々しい、興奮の色を濃く含んだ声に我に返る。いつの間にか、小さく揺らめいていた光が近くなっていた。
その騒々しさからするに、森を抜けた所にそれなりに大きな町でもあるのだろう。
そう考えた男は、森に引き返そうと思い振り返る。
振り返った先の光景を見て、男は少しばかりの驚きと多大な苦汁の色に顔を染め上げる。
男が振り向いた先には、先程錬金術で土の壁に閉じ込め、撒いたはずの銀色に鈍く光る教会の騎士がいた。胸の十字が異様に、妖しく紅く僅かな太陽の光を反射する。
騎士は男を睨み付けると、苦汁と少しばかりの憎悪を込めて言葉を放つ。
「ただの追跡劇だと完全に油断していた。今度は先程のようにはいかんぞっ」
騎士は洗練された動作で腰の剣を抜く。滑らかな金属の滑る音が空気を震わせ、その剣身が姿を現す。教会の権威を示すような華美な装飾の類は一切なく、人を斬ることのみに特化したそれはまさしく剣(つるぎ)と呼ぶに相応しい代物だった。
騎士は男の方に走り出す。
面倒だ、と思うと同時に気付く。騎士が森の方にいるため、町の方にしか逃げられないことに。
男は軽く舌打ちすると、騎士に背を向け町の方に向かって走り出した。
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