ケサ シンダ

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俺、今朝、死んだ。 外は雪がちらほら舞い落ちる、とても寒い日だった。 ええと、良くわかんねぇけど。俺、今朝、死んだっぽい。 お母さんが俺のこと抱えて、慌てて病院に連れて行った。俺は、それ、高い高いところにふわふわ浮かんで、ぼんやり見てた。 白い服着た、禿げたオッサンが俺の身体をざっと診て、こう言った。 「……こりゃあ、もう駄目ですね」 お母さんは少し泣きそうな顔して、また、俺のこと抱いて帰った。 マジか、俺。マジで、死んだんか。 家に帰るとお父さんが玄関口で待ってた。お母さんは俺を抱えたまま、静かにお父さんに向かって首を横に振った。お父さんが慰めるようにお母さんの肩を抱く。 最近、喧嘩してることが多かった二人なのに、なんだか……絵になってた。そう、さまになってた。ちょっとほっとする。 雪は少しずつ、世界を白く変え始めていた。 お母さんが俺の身体を綺麗に拭いてくれた。お父さんはタウンページ見ながら、どこかに電話している。 ああ、多分。俺の身体焼くとこ、探してんだろうな。 そして、お父さんとお母さんの最近の喧嘩の原因が、部屋から出てきた。 部屋から出てきたのは、俺の弟。 今年でもうあいつも17歳か。 早いよな、おい。月日がたつのは。 部屋から出てきたあいつは、冷たくなった俺を見て……、その顔をブサイクに歪ませた。……久しぶりにあいつのそんな顔見たな。 昔はしょっちゅう泣いてたのに。 近所で転んでは痛いと泣き、お母さんに叱られてはゴメンナサイと泣き、近所の悪がきと喧嘩して負けては悔しいと泣き、……そう、泣いてばっかだったのに。 いつからだったかな、転んでも泣かなくなったのは。いつからだったかな、叱られるような悪戯をしなくなったのは。いつからだったかな、他の子と喧嘩なんかしなくなったのは。 ああ、懐かしいな、その顔。もう、お前は声を出さずに泣くんだな。 でも泣き顔は一緒だ。昔のまんま。不細工なまんま。 ああ、泣くなって。 ごめんよ。 でも、もう、仕方ないだろ? 俺は、今朝、死んだんだから。
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