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シロウサギは、警戒するようにアタシを見つめる。
眼光はナイフみたいに鋭いくせに、どうやらソレは凶暴性ではなくて恐怖心からきているらしい。
臆病な、シロウサギ。
これは、夢なの?
気付いたら、アタシはシロウサギを追い掛けていた。
まるで童話の主人公のように。
アリスとして走る。
何も、思い出せなくなっていた。
アタシは、本当にアリスなの?
「思い出なんて……!」
逃げるように前を走るシロウサギが、不意に声を上げた。
悲鳴のように甲高い声。
「思い出なんて、そんなに美しいもんじゃない。
オレはもっと美しいものを知ってる。忘れたけどな」
だけど何故か落ち着いた印象のその言葉。
どうやらシロウサギも、アタシと同じらしい。
過去の記憶なんてないんだ。
忘れちゃったんだ。
今のアタシみたいに。
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