時の旅人

2/9

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
暖かな日差しから蒸し暑くなる季節。 昼間はじっとりと汗をかき、夜はヒンヤリと冷たい。 窓から入る夜風が気持ちよく、一人でベランダへ出て行く。 「気持ちい~」 思いっきり両手を広げて外の空気を吸い込む沙織は、夜景を彩る街並みを見つめた。 点々と奏でる街の輝きは、まるで子供の頃に夢見た宝石が輝いているようだった。 「あいつ元気かなぁ」 夜景を見る度に思い出すあの時の別れ……。 決して悲しくないと自分に言い聞かせていた。 沙織には、子供の頃からの夢があったのだ。 元々、体の弱い沙織は外で遊ぶ事が殆ど無かった。 自分の友達は、部屋の中にある白いキャンバス。 風景画に憧れていた沙織は、学校にも行く事なく毎日絵を描いていた。 そのお陰なのか、今では個展を開く所まで来ている。 ここまで来るには、色んな事があった。 その中でも反対を押し切って留学すると決めた事は、今でも鮮明に覚えている。 自分の選んだ道なのだと言い聞かせ、後悔しないようにと思っていた。 それでも、こんな綺麗に輝く街並みを見ると、つい思い出してしまうのだ。 あの時も街は輝いていたから……。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加