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暖かな日差しから蒸し暑くなる季節。
昼間はじっとりと汗をかき、夜はヒンヤリと冷たい。
窓から入る夜風が気持ちよく、一人でベランダへ出て行く。
「気持ちい~」
思いっきり両手を広げて外の空気を吸い込む沙織は、夜景を彩る街並みを見つめた。
点々と奏でる街の輝きは、まるで子供の頃に夢見た宝石が輝いているようだった。
「あいつ元気かなぁ」
夜景を見る度に思い出すあの時の別れ……。
決して悲しくないと自分に言い聞かせていた。
沙織には、子供の頃からの夢があったのだ。
元々、体の弱い沙織は外で遊ぶ事が殆ど無かった。
自分の友達は、部屋の中にある白いキャンバス。
風景画に憧れていた沙織は、学校にも行く事なく毎日絵を描いていた。
そのお陰なのか、今では個展を開く所まで来ている。
ここまで来るには、色んな事があった。
その中でも反対を押し切って留学すると決めた事は、今でも鮮明に覚えている。
自分の選んだ道なのだと言い聞かせ、後悔しないようにと思っていた。
それでも、こんな綺麗に輝く街並みを見ると、つい思い出してしまうのだ。
あの時も街は輝いていたから……。
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