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「沙織さんって言うんだ」
和樹は自己紹介を終えて、沙織の隣に座っている。
この病院は待ち時間が長い事で有名で、いつも時間を持て余していた。
それは和樹も同じだったらしく、二人はその待ち時間の間ずっと一緒に居た。
弾む会話に心が躍り、病院へ来る事が楽しくなっていた。
そんな時、和樹はリハビリも終えて、通院が終了した。
沙織が生まれて初めて話す事が出来た異性。
その彼と会う事が出来なくなる事が辛く、落ち込む日々が続いて行く。
最低、週一で行かなければならない病院へも行かなくなり、自分の部屋で閉じこもるようになっていた。
絵を描く事が好きだった沙織は、この部屋から見える夜景を眺めてはキャンバスへ写していく。
もう同じ絵を何度描いた事か。
だが今は絵を描く事にも集中する事が出来なかった。
「和樹君……。今頃何してるのかなぁ……」
沙織は一人でそう呟く事が増えていた。
そして、今までキャンバスに描いていた絵は、和樹の似顔絵に変わっていた。
まるで写真のように描かれた似顔絵は、沙織を優しく見つめている。
それは沙織の思い描く恋心のようだった。
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