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二人は沙織のベッドの上に居た。
月夜の灯す明かりが沙織を引き立てている。
「綺麗だよ」と和樹が言いながら沙織に口づけをすれば、甘い吐息がお互いを包んだ。
二人は時間を忘れ温もりを感じあっていた。
窓から聞こえる虫達のさざ波。
沙織は今まで生きてきた中で一番の幸せの中にいた。
「ねぇ和樹」
そんな幸せな時間の中で、沙織の一言が全てを壊していく事になる。
「なに?」
和樹は体を起こす沙織をジッと見つめていた。
小ぶりながらも形のいい胸を恥ずかしそうにシーツで隠すと、沙織は窓際へ向かって行く。
そして窓を開けると、そこから見える街並みがキラキラと輝いていた。
「どうしたの?」
隣に来る和樹は、沙織の肩を優しく抱き寄せた。
「ずっと考えていた事があるの」
沙織の視線は和樹ではなく、外の街並みへ向いている。
「ドイツへ留学するわ。そこで絵の勉強がしたいの」
沙織は怖くて和樹の顔を見る事が出来なかった。
初めての夜にこんな事を言ったのだ。
優しい和樹でも許してはくれないだろう。
それでも今度はしっかりと和樹の目を見て同じ言葉を口にした。
留学すると……。
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