・・・桜の下で・・・

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そんな、全てが真っ白な世界で、街頭にぼんやりと浮かぶ公園へ続く遊歩道の入り口。 気付けば、吸いよせられるように遊歩道を進んでいた。 雪の冷たさに、色々な記憶や出来事。私はいつの間にかうつ向き、肩をすくめていた。 降り続ける粉雪に混じり、一片の花びらが舞い落ちてきた。 「…花?」 眉間をひそめながらも顔をあげ、辺りを見渡す。 白銀の雪景色の中を点々と淡い桃色の花びらは無数に落ちていた。おもむろに足元の花びらを拾いあげ、上を見上げた。 「桜!?…」 一瞬、声を失ったのは真冬に満開の桜を見たからではなく、そのあまりに幻想的な姿に圧倒されたからだった。 薄ぼんやりとした街頭に照らし出された満開の桜は、粉雪の降る中。儚くも鮮やかに花散らし…美しくも不気味に咲き誇っていた。 『狂気の桜。』 急に聞こえた声に悲鳴をあげそうになった。 『こう言うのを、そう言うんだろうね…』 そう続けたのは初老の男性だった。 黒く高級そうなコートにスーツ、上品そうな顔立ち。 傘もささずに、降り注ぐ雪を肩に受けながら桜を見上げていた。 「狂気の…桜?」 『ええ、木が枯れる前に盛大に花が咲く。とか、天変地異の前ぶれ。とか色々言われますがね…』そう言いながら男性は微笑んでこちらを向いた。 「なんだか、あまり良くないことばかりですね。」 『あはは、そうだね。禁断の愛の象徴と言う話もあったかな…』 そう言いながら男性は笑った。 「禁断の…愛?」 『ええ。その昔、身分の高い兄妹が恋に落ちて、お互いの伴侶を殺してしまうんだよ。追い詰められた兄妹は庭の端の枯れ桜の下で心中をするんだけど、その時の血を桜が吸って。それ以来季節外れに花が咲く。と言う話らしいよ。』 「なんだか…怖い話ですね。こんなに綺麗なのに…」 『儚い美しさには、常識では許されない事が多くてね…だからこそ人は魅力を感じるのかな…』 「許されない…魅力」 そう繰り返した瞬間、私の頭を何かがよぎった。 更に男性は話を続ける。 『愛情のかけかたの違いとかね…常識と言うものは、所詮人の作ったものだからね。何が正しいかは解らないものだよ。』 そう話す男性の顔が、少し悲しげに微笑んだ気がした。 「あの…?」 『ん?ああすまなかったね。こんなオジサンの話に付き合わせてしまって…』 「いえ…」 頭が酷く痛い。薄ぼんやりと男性の声が聞こえる。
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