11人が本棚に入れています
本棚に追加
走って駅に着いた頃は、電車の時刻ギリギリだった。
雪のせいか車内はがら空きで、ホームにもあまり人影はなかった。
益々酷くなる頭痛に耐えきれず、バックに常備されている鎮痛剤を飲んだ。
積雪の為、運行が遅れるとアナウンスが流れたのをぼんやりと覚えている。
「眠い…薬のせいかな、あったかいな…」
ぼそっと呟くと、私は眠りについてしまった。
暖かい車内と薬の作用。何より、あの家から離れた安心感があった。
・・・・・・・・・・・・・・
足元まで真っ暗な闇の中。鮮やかに浮かびあがる桜の木。
舞散るのは花びらか…粉雪か…
《…狂喜の桜》
誰かの声が響く。
〈狂喜?狂気じゃなくて?〉
聞き返すのは…私?
《狂喜の桜。こんな中で本当の美しさを出すのか…こんな中でしか、本来の姿を出せないのか…》
いつの間にか隣に立つ彼は、彼は…
・・・・・・・・・・・・・・
「アキっ!?」自分の声に目が覚めた。
『どうしました?』車掌さんは驚き顔だった。
恥ずかしさで顔をあげられず、うつ向いたまま私は「すいませんっ何でないです!!」と言い頭を下げた。
車掌はすぐに『そうですか?もうすぐ次の駅ですよ』
そう言いながら笑顔で次の車両へと入って行った。
どれ位眠っていたのか、いつの間にか電車は動いていたらしい。
「次の駅!?…良かったぁ」車掌さんの言葉にはっとし、停車駅を確認した。
どうやら乗り過ごさずにすんだらしい。
私はホッとすると窓の外を眺めた。
いつの間にか雪はやんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!