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猫なで声で、自分の後輩の演技のつもりなのか、一人でやかましく騒ぎ、勢いよく水を顔に引っ掛けて洗顔、短い栗色の癖っ毛は丁寧に力強く梳かし、どうあがいても癖っ毛の髪に絶望しながらパジャマはベッドに放り投げてさっさと制服に袖を通す。
星琥がドタバタ騒ぎ散らかして家中は賑やかだったが、彼女のいなくなった後の寝室はとても静かだ。
その平和な空間で、星琥にうり二つの顔ではあるが星琥の髪質とは正反対のサラサラのブラウンの長髪に、伏せ目の機嫌の悪そうな双子の妹、華矢(かや)がすうっと目を覚まし、鬱陶しそうに小さく呟いた。
「アホめ、ママはずっと星琥に声かけてたわ、おかげでこっちまで超早起き……うっわまだ5時半じゃんイカれてる」
「華矢も早く起きて!朝練間に合わないよ?!」
「いやいや私は高校入ってから部活辞めたでしょ、いい加減慣れてくれ……」
ついでに起こされてしまった華矢は、眠さのあまり目が開かずに何度も眉間を歪ませ、携帯の時計を見て驚愕する。
身支度を大雑把に済ませながら星琥は華矢に大音量の声を掛けていたが、華夜は適当にあしらって、再びベッドに潜り込んでしまった。
華矢は帰宅部で、朝になるたび星琥の登校騒ぎに巻き込まれているようだ。
二人で剣道部を続けて行きたかった星琥は、毎度のこと悔しそうに叫ぶのだった。
「昔っからずーっと一緒に剣道やってたのにあー!!あああもう行ってきまーす!!」
「星琥!早食いは身体に良くないわよ!」
何時の間に朝食を吸い込んで食べたのか、星琥はあっという間に玄関まで走り出す。
「ん?」
ふと、視界に入っ ていたドアが一つ、風も無く、ゆっくりと……ひとりでに開いた。
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