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「我を船にのせよ、長宗我部」
それは突然の訪問。
そして突然の命令だった。
「はあ…?
ってか元就、お前どうやって城に…」
「ふん、そのようなことは同でもよい。
さっさと我を貴様の船にのせぬか」
鼻をならし、元就は自室の畳に寝転がる元親をじろりと睨んだ。
対する元親は腕を組んで自分を見下ろす元就を見つめ、心の中で苦笑した。
何故元就がここにいるか、なんて。
そんなのは、部下が通したからに決まっている。
こうしていつも突拍子もないことを言いにやって来るのだから、もはや元就は長宗我部軍のあいだでも有名だ。
--『兄貴の恋人』だと。
(…恋人、ねえ)
果たしてそう言えるのか分からない。
「長宗我部!
何を呆けておる。
はやくせぬか」
元親が遠い目をしていると、痺れを切らした元就が元親の首根っこを鷲掴みにした。
「うげっ!
ちょ、元就!首しまってる!!」
「喚くな、馬鹿が」
ずるずると引きずられながら、元親は訴えた。
「死ぬ、死ぬ!
わかった、船に案内すっから!」
それを聞くと、元就はぱっと手を離す。
「初めからそう言えば良いものを。
時間をとらせるでないわ」
「…へーい」
首をさすりながら、どこにこんな腕力があんだよ、と、元親は心の中でつっこんだ。
(これが恋人か?
いや、違ぇだろ…)
ぐったりとしつつも、これ以上元就を不機嫌にさせないために
…なにより、自分の精神が追い詰められるのを防ぐためにも、元親は城をあとにすることにした。
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