思いつき

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    「・・・・・・・・・・。」   「・・・・・・・・・・・何だよ?」       となりを歩く美貌の生徒会長殿は なにやらご不満なご様子である。 たぶん俺がこの書類を奪ったのが 気に入らないのだろう。アホか。 あんなに重そうだったクセに。       「・・・そんなむくれんなよ。 俺は別に他意がある訳でもねぇし 普通にちょっとした親切だぜ?」   「・・・むくれてなんかない。」       嘘つけ。眉間に皺よってんぞ。 まるであのクソ理事長みたいだ。       (――・・・まあ、親子だしな。)   「オレの顔に何かついてる?」       しまった。見すぎていたらしい。 目の前には怪訝そうにこちらを見る生徒会長の顔があった。       「いや・・・何でもねぇよ。」   「だったらなんで見てたのさ。 オレの顔に見惚れてたとか?」   「自意識過剰って知ってるか?」   「冗談に決まってるでしょ。」   「おめぇの場合はリアルに綺麗な 顔してっから冗談に聞こえねぇ。 実はナルシストとか?」   「・・・・・・死にたいの?」   「それこそ冗談だっての。」       (なんだ。喋れんじゃねえか。)       いつの間にやらコイツの瞳からは 冷たい軽蔑の色が消えていた。 口調もずいぶんと砕けたもので、 きっとこちらが素なのだろう。       「お前は変なヤツだ。」   「・・・・・喧嘩売ってんのか?」   「違う。オレは天乘院の人間で、 理事長の息子で、生徒会長なのに こんな感じに軽口を叩くなんて、 普通のヤツならまずしない。」   「・・・・・・・なんでだよ?」   「なんでって・・・やろうと思えば オレはお前を退学にだって出来る ような立場にいるんだよ?普通の ヤツなら媚びたりとかする。」       そう言った生徒会長は、 どこか硬くて暗い表情だった。 なんだか存在すら小さく感じる。       「そんなん知らねーよ。そもそも 俺が媚びるとかムリ。キモい。」   「・・・・・やっぱりお前は変だ。」   「ならおめぇは失礼じゃねーか? もっとこう違う表現をだな・・・・」   「変。」   「ボコるぞ?」   「あーホラ、着いた着いた。」   「流してんじゃねえぞコラ。」       口ではあーだこーだ言いながら、 俺は生徒会長が嫌いではなくなっていた。
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