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手近にあった木の幹に背中を預け
ぼんやりと空を見上げる。
喧嘩は別に嫌いじゃない。
だからって好きなわけでもない。
汗だってかくし怪我すりゃ痛ぇ。
俺が毎日のように喧嘩をするのは
毎日のように絡まれるからだ。
"極道の家である"
それだけで俺はよく絡まれる。
喧嘩をしたい訳じゃない。だが、
相手しなければやられるだけだ。
そんな感じで適当にやっていたら
次第に相手の人数が増えていた。
最初の相手はたった2人だった。
でも、ふと気が付けば目の前には
30、40人がそれぞれの獲物を
持って立ちふさがっていた。
引き返せないのだ、と
気が付いたのはその翌日だった。
それまではまだ比較的普通だった
周りの人間の態度が豹変した。
振り向けば皆が俺に恐怖した。
媚びるヤツとか逃げるヤツとか、
やり方は別でもその感情は同じ。
近しい友達は居なくなった。
それでも毎日絡まれて、
ただ喧嘩ばかりをする毎日。
逃げるわけにはいかなかった。
俺の喧嘩はただの"殴り合い"では
済まない所まできていたから。
ただ拳が木刀になり、
木刀が金属バットになり、
金属バットがナイフになった。
引いた先には死が待っている。
ソレは簡単に人を殺せる道具だと
相手は知らずに使っているのだ。
そして俺はわかりやすいくらいに
不良、と呼ばれる存在になった。
そんな状態が未だに続いている。
(別に今さら普通になりたいとか
んなこと思っちゃいねぇけど。)
緩く溜め息をついて立ち上がる。
もしも誰かに見つかっちまえば、
本当に停学になるだろう。
上を見れば灰色の空。
それは色褪せた俺の世界のようで
汚ねぇな、と独り呟いた。
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