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そこは街を見下ろす、展望台。
夜景が綺麗なことで有名な、いわゆるデートスポットであった。
周囲には車が数台止まっており、中から眺める人達もいれば外に出て夜景を眺める人達もいる。
「綺麗だねー」
「あ、あそこ大学じゃない?」
「本当だ。ねえ、そういえば聞いた? 今日大学の建物が急に崩れちゃったんだって」
「……おいおい、そんな話しをここで始める気か?」
「それもそうだね。じゃあ、そろそろ帰ろっか?」
「うん」
会話をしていた二人は車に乗り、街へ帰っていった。
そんな車を遠目に見つめ、今が昼であれば誰かが引き止めに来そうな目をした男がいた。
東城一魔。
全国各地に秘密裏に存在する魔法使いの組織『麒麟の右目』の頭首の息子にして眼下に広がる街を担当する小隊長である。
そんな彼が、何もかもが嫌な気分になっているのには訳があった。
昼間に自分の部下がもう確実に死んでしまうと言われ、無力感を味わった。
そして自分が師と仰いだ人物が、自分の“正義”という信念と真逆の存在であり、あろうことか父親までその企みに参加していた。
いや、今のは家族贔屓な言い方だ。
正確には父親が彼らを主導している。
中心人物だったのだ。
そして、そんな彼らを止めたい自分だったが、自分では師にもかなわない。
さらに父にいたっては戦いにすらならないだろう。
一方的に殺されるだけだ。
しかし、そんな師を部下はいとも簡単に倒した。
一魔の胸の中では大きな無力感と、否定したい嫉妬心が渦巻いていた。
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