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僕にも力があれば。
一魔の心に、そんな力を渇望する思いが雫となり落ちた。
それは静かな水面に広がる波紋のように彼の心の中に伝わっていく。
力があれば?
そうだ、力があれば何でもできる。
部下だって救えた。
幻王だって倒せた。
獣王も倒せたはずだ。
それならば秋だって倒せた。
そう、自分のプライドも正義を守ることも簡単だったはずだ。
何が悪い?
力なんてそんなに簡単に手に入るわけがない。
才能なんていう理不尽なシステムがこの世界には存在しているのだ。
それはどんなに持たない者が努力をしても、それを軽く超えていく人への差別用語だと一魔は思っていた。
今まではそれをいわれる側であった彼はその程度にしか思っていなかった。
だって、それを言う者達はそんな諦める為の魔法の言葉を頼りに生きていると思っていたから。
彼らは一魔に才能があると言い、そしてそれは実際そうだった。
一魔は魔法使いの世界で父親と二人だけの雷を操る魔法使いだ。
それは一魔だけに与えられた才能。
周囲に言われ、また一魔自身もそう思っていた。
魔法使い達との訓練で負けても経験の差だ、決して潜在能力では負けないと思っていた。あの日までは。
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