279人が本棚に入れています
本棚に追加
亜希ちゃんと出会ったのは、私がまだ19歳の時。
当時、美容師見習いだった私は出来る技術が限られている中で、シャンプーは同期の誰よりも上手だと自信があった。
よく指名を頂いていたからだ。
亜希ちゃんも、シャンプーは必ず私を指名してくれていた。
亜希ちゃんは、当時30歳。
独身、彼氏なし、仕事は秘密らしい。
いつも小奇麗な格好をしていて、シャンプーとセットをして出掛けてゆく。
来ると毎回、スタッフがおつかいに行くかわりに、他のお客様を含め店にいる全員にドトールのコーヒーをご馳走してくれる。
お会計はいつも三千円程度だが、壱万円を差出しおつりは必ず受け取らない。
初めて私が亜希ちゃんのレジを担当した時、なんとかおつりを返そうとした。
「一度いらないって言った物をどんな顔して受け取るの、もう来て欲しくないって言うんだったら受け取るよ。」
そう言ってにっこり微笑んだ。
洒落た断り方するなぁ。
そう思った私は、返そうとするのをやめた。
その代わり、でもないけれど人遣いは荒い。
でも、悪意は感じない。
何とも言えない彼女独特の雰囲気があり、俗に言うセレブをもっと親しみやすくした、言うなれば「プチセレブ」という様な感じの人だった。
この時点では私にとってお客様の中のひとりでしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!