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柵の天辺に腰を掛け、うつろな目をして私達を見おろしながら、亜希ちゃんは言った。
「……亜希だって、平気な訳じゃなかった…出来るなら人生やり直したい…」
「もういいよ終わった事は!とにかく降りてきてよ!!」
「……そうだね…ゆりの方がいいね。ゆりの方が、島本さんに似合ってるのかもしれないね…幸せにね……」
そう言った亜希ちゃんは自ら手を離してバランスを崩し、また柵を掴み直した。
「……やっぱり、死ぬのは怖いね…」
「当たり前だよ!!お願いだから降りてきて早く!!早く――――――ッッ!」
金切り声をあげ、切望した。
「亜希さん、降りて下さい!!」
彼の言葉に亜希ちゃんは、初めて私が賭博場に来た日に見た、彼へのとびっきりの笑顔を向けた後、周りにあるもの全てが色褪せそうな悲愴感を漂わせ、言った。
「……島本さん…今度生まれ変わったら、あなたに好かれる様な女になるから……その時は…その時は冷たくしないで下さいね……」
その一刹那、亜希ちゃんの体が引力に任せて落ちていき、視界から消えた。
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