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よく来る時はだいたい週に二回ぐらいのペースで来店し、あまり来ない時は1ヵ月程ぱたりと来なくなる。
「ゆりちゃん、本当にシャンプーうまいよね。その辺の男とセックスするより気持ちいいよ。」
シャンプー中に亜希ちゃんが言う。
「ありがとうございます。亜希さんにそう言ってもらえると、すごくうれしいです。亜希さんは、ゆりの憧れだから。」
「亜希が、ゆりちゃんの憧れ?なんで?」
「うーん、なんて言うか、生活感がない所ですかね。私のイメージだと30歳って、もっと所帯染みてる気がするんです。でも亜希さんは、いつも綺麗にしてらっしゃるし、誰にでも気さくに話してくれるし。綺麗なのに気取ってないし。私も、亜希さんみたいになりたい。」
「あはは、かわいい事言うじゃない。ゆりちゃんを、亜希の弟子にしてあげよう。でも、気取ってないっていうのはしっくりこないな。これでも目一杯気取ってるつもりなんだから。亜希のプライドはエベレスト級なんだからね。」
「あはは、ごめんなさい。気取ってないって言うのは、いい意味でですよ!」
……本音を言うと、この時はまだ彼女に対して言葉に並べた程の憧れの気持ちはなかった。彼女は確かにいつも綺麗にしてはいるが、決して美人ではなく、ヤギみたいな顔をしていた。
そして、一人称が「亜希」である事がひどく似合っていなかった。
けれど、人をひきつけるオーラがあった。
なので、毎回亜希ちゃんのシャンプーをするのは楽しかった。
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