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亜希ちゃんが来店する時間は、いつもバラバラだ。来る前には必ず電話予約を入れる。
予約をしておいて時間になっても来店しない、なんて事はよくあった。
行こうと思っても気が変わるんだそうだ。
亜希ちゃんに指名されるスタッフは前もって体を空けておくので、段取りが狂う。
その日は珍しく予約なしで来た。
「ゆりちゃーん、今日はちょっと急ぎなの。だからトリートメントは、なしでお願い。
あっ、ゆりちゃんってば、また膝丈のスカートはいてるじゃん!足が太く見えるからダメって言ったでしょ?」
「次買うときは気を付けま~す!」
他に指名が入っていたので、予約なしのお急ぎも、かなり段取りが狂う。けれど彼女はお得意さんだし、態度に出せないのが仕事だ。
「お急ぎですよね、かなり急ぎますね!」
「ありがとう。今日はね、大事な取引があるの。」
「取引ですか?何の取引?亜希さんの職業が気になる~!」
「弟子のゆりちゃんにも、それは内緒なの。ミステリアスなところが、またいいでしょ。」
そう言っていたずらっぽく笑う亜希ちゃん。
「じゃあ、もっと仲良くなったら教えてくれますかぁ?」
「んー、内緒って程でもないんだけどね、説明が面倒っていうか。機会があれば今度飲みに行こうよ!亜希お酒飲めないけど。」
「えぇ~!亜希さんが誘ってくれるなんて、ゆり感激!!」
とにかくオーバーなリアクションをすればお客様は喜ぶと思っていた私は、その日もかなりオーバーに喜んだ。
別にプライベートで会うつもりは、なかった。
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