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30分後、交番に来たのは、
白髪混じりの黒髪を短く刈揃えた、がたいの良い中年の男性。
笑顔に戸惑いつつ、彼は差し出された手をとる。
「娘を助けてくれたのは君か!
私は草薙吾郎だ。
よろしくな。」
「は、はぁ…。」
今まで彼に向けられてきたのは
冷たい目線
侮辱の言葉
命を奪う凶器。
そんな彼に今の吾郎の笑みは眩しすぎた。
英雄達の笑顔と違い、純粋な人の笑みを久しく見ていなかった彼には辛すぎる。
彼は自身の笑みがひきつっているのが自覚できた。
何年も笑ってないため筋肉が痙攣を引き起こしている。
「何か礼がしたい。
時間は大丈夫かな?」
「…はい。」
時間が無駄に余っていた彼は吾郎の誘いを断ることも出来ず、
そのまま連れられて来たのは高級ホテル最上階のレストラン。
促されるままに席について、流されるままにワインを口に含む。
そこで彼は吾郎の顔が今までとは違うことに気付いた。
「君は大切な物でも失ったのか?」
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