act 1

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彼の時間が止まった。 見抜かれていたのだ、彼の抱えている物が。 「何、私の娘を助けてくれたヒーローが暗い顔をしているのでね。 失礼だったかな?」 「…。」 多くの物を失い、守れず、それ以上の物を奪ってきた。 唇を強く噛み締める。 呑んだワインのアルコールが強かったのか意識が高ぶる。 「何も…守れませんでした。 守るための力を手に入れても、それ以上の力に奪われて。 そのくせ他人よりも多くの物を奪ってるんです。」 「そうか。」 恐らく目の前に居たのが英雄だったら、彼は黙っていただろう。 同情ではなく共感。 味わった者しか分からない感覚を感じたから、彼は言った。 グラスに残ったワインを一気に飲み干し、再び吾郎の方を向く。 「だからヒーローなんかじゃないですよ、自分は。」
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