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彼の時間が止まった。
見抜かれていたのだ、彼の抱えている物が。
「何、私の娘を助けてくれたヒーローが暗い顔をしているのでね。
失礼だったかな?」
「…。」
多くの物を失い、守れず、それ以上の物を奪ってきた。
唇を強く噛み締める。
呑んだワインのアルコールが強かったのか意識が高ぶる。
「何も…守れませんでした。
守るための力を手に入れても、それ以上の力に奪われて。
そのくせ他人よりも多くの物を奪ってるんです。」
「そうか。」
恐らく目の前に居たのが英雄だったら、彼は黙っていただろう。
同情ではなく共感。
味わった者しか分からない感覚を感じたから、彼は言った。
グラスに残ったワインを一気に飲み干し、再び吾郎の方を向く。
「だからヒーローなんかじゃないですよ、自分は。」
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