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そして、転移したフィーラルは、現在【鴉】の本部に足を踏み入れていた。
「……。」
赤いカーペットが敷かれたロビーを無言で突き進み、大きな階段を上がって廊下を一番奥まで進む。
「…。」
目の前に広がるのは、焦げ茶色の金色のドアノブがついた大きな扉。
その壁に掛かっている銀のプレートには【Ⅰ】と彫られていた。
此処はフィーラルの為に割り当てられた部屋だった。
その扉を無遠慮にフィーラルは開けるとやはり無言で中に入る。
中はやけに殺風景なもので何か寂しくも思える部屋。
フィーラルはその事を別段気にした風も無く、そのまま、部屋の中にしつらえられた黒色の机に椅子を引いて座る。
机の上に有るのは依頼書、情報書とその他マスターがさぼった分の雑務と書類。
フィーラル程の腕の者は依頼が絶えず、仕事も多い。
それは暗殺とか護衛ばかりじゃなく書類による仕事も多いのだ。
情報を与えたり、貰ったりというのも有るから。
「けど…。」
どうしても納得出来ない事がある。
何で本来マスターが自分で処理すべき仕事が、僕の所にまでお鉢が回って来るのだろう。
と言うことだ。
唯、それも今に始まった事ではない。
「はぁ。」
半ば諦めた様にフィーラルはため息を吐くと、山積みの書類を手に取り、ペンを走らせた。
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