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コンコン。
その音で淀みなく動いていたフィーラルの手がピタリと止まった。
「どーぞ。」
そう、扉ごしに立っている人物に言った。
「失礼します。」
何処か機械的な口調でそう言った人は恭しくフィーラルに頭を下げた。
「マスターより伝令です。今すぐマスターの部屋に来る様に。との事です。」
ふぅ。と息を吐いて解った。と返事をする。
デスクの椅子から降りて、外に向かう。
その途中伝令を伝えに来た、伝令役のひとに声を掛ける。
「わざわざ…ありがと。」
声が低いから、多分男であろう伝令役のひとは、まさかフィーラルに声を掛けられるとは思っていなかったらしく、声が若干裏返った。
「いっ……。いえっ。」
フィーラルはその声に疑問を抱きつつマスターの部屋へと急ぐ。
マスターの部屋のあるフロアは何時も静かで、人の気配も無いに等しい。
足音を立てず、気配を消してマスターの部屋の扉を叩く。
そして、相手の返答など気にせず部屋に入った。
最早、ノックの意味など無かった。
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