帰宅

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「ちょっとマスターに報告してくる…。」 フィーラルはそう言うと、デルタの返事も聞かずに【鴉】の本部に転移していった。 門をくぐり、ロビーに入ると先程来た時よりも人がいてざわざわと騒がしかった。 丁度任務が終わり、帰ってくる人達が多い時間に鉢合わせしてまったらしい。 …が。一歩。フィーラルが其処に足を踏み入れるとぴたりと今までの騒がしさが嘘の様に静まり返った。 「……。」 彼らの瞳に浮かぶのは、畏怖や尊敬。 そして新人達は疑問。 様々な反応だが、フィーラルは馴れたもので全く表情を変えず、真っ直ぐにマスターの居る部屋を目指す。 コンコン。 「はーい。」 その返事を聞いて部屋に踏み入れる。 「ますたー。」 「フィーラル。終わったー?。」 「ん。“ラヴィリアの壊滅”完遂…。」 「おっけー。お疲れ様。新人君は先に帰ってきて手当て受けてるよ。」 手当てって事は負傷したんだ。 まぁしょうがない、かな?。 新人だし、まだまだ弱いし。 「ふーん。」 興味が無いらしい。 フィーラルは素っ気なく言って、ふと思い付いたようにマスターに訊いた。 「ますたー。僕血のにおいする?」 自分では、もうその臭いに慣れ過ぎて、よく解らないから。 するとマスターはほんの少し眉をひそめて言った。 「うーん。普通の人なら先ず気付かないだろうけど、僅かに。」 「ふぅん…。」 「どうしたの?。今まで気にも留めなかったでしょ?。」 するとフィーラルは面倒臭いという表情を隠しもせず頷いて。 「そ…。今まで気にとめなくても、良かったんだ。でも、今は一応学生だからね…。」 普通の一般人から血の臭いがしたらおかしいから。 でも、それを聞いてどうこうする気は全く無い。…っていうか出来ない。 だって此れはもうきっと絶対取れない。 身体に染み付いた体臭みたいなもの。 「あぁ。そっか。僕も其処まで気が回って無かったよー。一般人でも鼻が利く人は割と多いからね。」 だろうね。 「大丈夫だよ。いざとなったら誤魔化してみせる。」 最終手段で殺すという手も有るけれど、死体の処理が面倒だから、たぶんやらない。 「そう?。」 「うん。―――報告はこれだけ。帰るね。」 「うん。お休み。」 「おやすみ…。」 そう言って本部を後にした。
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