貴族

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バタンッ。 重厚な音を立てて扉が閉まった。 そして常に探りづらい気配が遠ざかる。 「……フィーラルの言う通りなんだけどね。」 マスターはそう、ぽつりと零す。 ――マスターSide―― 机に肘を立てて頬杖をつく。 焦げ茶色の机に視線を落とし、自嘲気味に笑みを浮かべた。 そう、確かにフィーラルの言う通りなんだ。 自分自身で、その決まりを彼に刻み付けた。 そうでなければいけない。と 言ったのは自分で。 フィーラルはそれを遵守しようとしただけの事で、あの子には非はない。 物心のつく前から、今迄。 だから今更言っても、無駄なのだろうけど。 “戒律を破った者には死を”。 家族の様に過ごして来たデルタさえ、何の躊躇も無く、冷酷に斬ると言い切ったフィーラルは、暗殺者として在るべき姿だろう。 「あの子は正しい。」 だが…。 デルタをもし喪ったその時、フィーラルの心は少しも揺れないのだろうか。 不器用で聡い、優しいあの子は――。 …杞憂で終われば良いけれど。 ――マスターSide終了―― フィーラルが【鴉】の組織内を早足に歩いていると、やっぱり周りが騒ついている。 視線がうざったいなぁ。 組織の門を潜り、【転移】で家に帰った。 「ただいま。」 ぽつり。と呟いて中に入る。 何時もはデルタがいるが、任務なのだろう。 その気配はない。 すたすたとリビングに歩いて行き、其処に有る白い大きなソファに身を横たえた。 そして緩やかに目を閉じて、先程のマスターとの会話を思い出していた。 マスターが怒った。 「…どうして…?」 規則を守る。 それを守って何が駄目なの?。 「……。」 意味が解らない。 ごろりと寝返りを打つ。 「わからない…。」 もう、いいや。 マスターの命をこなす事。 フィーラルは薄らと笑う。 それこそが僕という【駒】に与えられた命題。 それを守っていれば良いんだから。
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