貴族

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「………。」 黒い外套を纏った小柄な人物が、身の丈程の黒い鎌を片手に持って立っていた。 その足下には数人の死体。 黒っぽい地面が紅い血に彩られている。 「……。」 小柄な人物はちらり。とその死体を一瞥すると、踵を返し闇の中に消えた。 トントン。 【鴉】本部のマスターの部屋の扉を叩く者がいた。 「どうぞ。」 机に向かい、ペンを走らせるマスターは、一つ息を吐くとそう言った。 「任務完了したよ。ますたー。」 ばさり。とフードを取り、現われたのは、フィーラルだった。 「お疲れ様。―――ごめんね。こんな夜中に。」 ちらりとマスターは部屋に置いている時計を見て言う。 時計は午前三時を指していた。 「別にいい。」 任務は昼夜問わず行われている。 依頼が入れば、それに見合った人間に遂行させる。 そこに子供や大人といった差はない。 幾ら幼くても、依頼が入れば夜中でも、駆り出される。 因みに【鴉】の最年少は今のところフィーラルだ。 しかし既に年齢が一桁の頃から任務をしていたフィーラルにとって、こんなことは当たり前なのだろう。 「他の依頼が入ったんだけど、やってくれる?」 「当たり前。」 息を吐く暇もない。 「じゃあ――――。」 マスターの命で、フィーラルは再び闇へと消える。 「ただいま」 結局、フィーラルが家に戻ったのは、日が昇った頃だった。 「お帰り。」 デルタも任務が終わってそれ程時間が経っていないのだろう。 血を洗い流したのか、髪が濡れている。 デルタはフィーラルを見て、眉を潜めた。 「血の匂いがキツいな。風呂入っておいで。」 「うん。」 デルタの言葉に頷き、バスルームに向かう。 コートを脱ぎ捨てると、ベシャと水分を含んだ音がする。 水を掛けるとたちまち紅い水に、変わった。 このコートは連続した任務で、血を浴び過ぎて、中の服にまで血が侵食していた。 銀の髪の毛にも血がこびり付いている。 しまった。血を浴び過ぎた。 フィーラルは思い切り眉を潜めた。 フィーラルは常に、常人では感じ取れない程、微かな血の匂いを纏っているが、今は一般人でも気付く程、強い血臭がしたのだ。
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