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ゴツッ!と鈍い音がした。
三四郎がメーベルをかばい、触手に捕われ、壁に叩きつけられた。
三四郎が声にならない悲鳴をあげる。
見るとギュスターウもついに触手に捕われ、オーランドだけが魔物と戦っている。
「やれ、ユリアン!あいつを放っておけば、また誰かが犠牲になるんだ!」
ギュスターウが懸命に叫ぶ。
ユリアンはようやく、ブラドへ向かって走り出した。
オーランドやギュスターウらが魔物の注意を引いてくれていたのでユリアンは敵の懐に潜り込めた。
強力な斬撃を打ち込もうとしたその時、メーベルの悲鳴を聞き、動きが鈍り致命傷にはいたらなかった。
その様子を見ていたオーランドが「ユリアン!貴様は何を守るために騎士になった!力ない民を守るためではないのか。」とユリアンに問いかけた。
意を決したユリアンは今度は躊躇わず魔物にとどめを刺した。
放心していたメーベルにユリアンは手を差し出した。
メーベルはそれをしばらくボーっと見ていたが、ふと、我にかえりその手を払い除けた。
「人殺し!兄さんを兄さんを返してよ!」何か言おうとしたユリアンをオーランドは手で制した。
村去る時、村人達がユリアン達に感謝することはなかった。いくら、魔物となったとはいえ気のいい若者を無慈悲に殺害した彼らに対する嫌悪感、
そして人外の者を倒すほどの力に恐怖が彼らの顔に張り付いていた。
ハンナの村を見下ろす丘でユリアンはオーランド達に言う。
「他に方法はなかったんでしょうか…村の人のために戦っているのになぜ、こんなことに…」
「他の異端審問官は本来の任務を忘れている。自分の欲のために罪もない者を悪魔憑きだとして、実績を挙げている者も少なくない。」テオが淡々と語り、
「だから俺達も恨まれて当然だ。ユリアン、恨まれる覚悟はあるか。世界の平穏のために恨まれても人のために戦う覚悟が!」オーランドが真っ直ぐユリアンを見た。
それはいつもの酔っぱらいの目ではなかった。
その視線を受け、ユリアンは力強く頷いた。
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