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「……要するに、それを置いてく気は無いって訳だね」
物乞いが問うと、千兵は首を縦に振る。
何一つ迷いの感じられない真っ直ぐな千兵の瞳を見て、物乞いは呆れたように言った。
「はあ……分かったよ。そのまま通れば良いさ。ただね……僕を含めて物乞いの皆はいつも食料を確保するのに一生懸命だからね。そのサクランボを君から盗ることに関して、あらゆる手段を使ってくるから。せいぜい怪我しないように頑張ってね……」
千兵は物乞いの忠告を顔色一つ変えずに聞いていた。
物乞いが話し終わると千兵はスケッチブックをめくり、白紙の一枚に何か乱暴に書きなぐるとそのページを破り地面に捨て、スケッチブックや文具をしまいサクランボのたくさん詰まった袋を抱えて、物乞い達が溢れんばかりにたかる道をずかずかと歩き始めた。
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