物乞いストリートの戦い

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「そうか……それでも離さないときたか……」 感慨深そうに老人は呟くと空を見上げた。 雲一つない、それでいて一切ムラなく青に染まる、どこか嘘臭い広大な空を。 老人がそんなときでさえ千兵は感覚を研ぎ澄ましていた。 周りの空気の流れ。 雑踏に紛れてあちこちから聞こえる金属のぶつかる音や擦れる音。 物乞い達が発する独特の匂い。 それらを千兵は感じ分けて、おおよその人の配置や持っているであろう武器や繰り出すであろう攻撃をある程度予測した。 一見すると難しい事のようだが千兵にとってはさほど特別なことでは無い。 そして千兵はある覚悟を心の中で決めた。 『戦う』覚悟である。 少しの間を開けた後、老人はようやく目線を空から千兵へと戻し、口を開く。 「ならば……」 周囲はいきなり雨嵐が去ったように静かになった。 千兵は自分の心臓の鼓動が高まっていくのを感じる。 時間一杯だ。 「そんな強情な兄ちゃんにゃ痛い目に会ってもらうかな」 老人が言い放った瞬間、 金属同士がぶつかる音が響き渡った。
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