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「本気で逃げるつもりじゃなかったけど……何で?どうして――」
『どうしてこんなたくさんの人達が自分達の姿を見て怖がらないんだー……って考えてるのかな?もしかして』
猛る物乞い達を目の当たりにし驚愕していた千兵とリリィの耳に、拡声器を通した聞き覚えのある声が飛び込んできた。
声の主は一番最初に話しかけてきたあの背が低い物乞いだった。
少し壊れかけの拡声器であろうか。
耳障りな雑音が入って聞き取りづらかったが物乞いは続けた。
『確かに普通の人達なら怖がるかもしれないね。恐怖心で何をするか分かんないから、早いとこ逃げとこうっていうそのアイデアは間違ってないかも。むしろ良い考えだよ。普通の人にはね』
一旦区切り、一呼吸置く。
そして息を思いきり吸い込み、
『だがしか――』
キィィィィィィィィィン
耳をつんざき脳に直接響くような甲高い不快な音をスピーカーが発した。
音割れだ。
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