物乞いストリートの戦い

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「千兵、大丈夫?」 不意に千兵の顔を覗き込むリリィの表情は、問いかける声色の割に不機嫌そうであった。 「だ……」 大丈夫。 千兵はできる限りそう伝えた。 リリィもそれを理解した。 「そっか……」 リリィは安堵したようで、微かに微笑むと千兵の視界から消えた。 また千兵の目の前には、今にも襲い掛からんと奮い立つ大勢の物乞いとよく内容を聞いていないが何かを話す小さな物乞い。 千兵の視界から消えたリリィは真面目な口調でまた話し出す。 同時に千兵は目を閉じ、周りの雑音の中でリリィの声を聞き出した。 「いい?千兵。『鬱モード』から切り替わってまだ心中穏やかじゃないかも知れないけど、もうそろそろアイツらが掛かってくる。一斉にくるから気をつけて。後ろから来る奴等は私がぶっ飛ばすから、千兵はいつも通り前をヨロシク」 深く息を吸い、 ゆっくり空気を吐き出し、 ゆっくり目を開ける。  何も考えるな。  何も感じるな。  迷うな。  今はただやるしかないんだ。 瞼を開けると、千兵の瞳はそういった決心に満ち満ちたようであった。
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