物乞いストリートの戦い

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「おうおう、やっぱ若者ならばそうこなくては!」 老人は楽しそうな表情で、しかし額と手のひらに少し汗を滲ませながら千兵の段平を頼りない木の枝で受ける。 千兵に囁きかけることで、また剣を取り闘う意志を取り戻すことは予想していた。 しかし実際の千兵の気持ちの転換速度とそれに伴う身体能力が、老人の予測するそれを遥かに上回っていた。 完全に後ろへと体勢を崩し、そのまま尻餅をつくと誰もが思った。 しかし地面に着く寸前、千兵は一度手離してしまった段平を、腕を思いきり伸ばしてギリギリ手に再び持つ。 尻が地面に着くと同時に右に身を逸らせて受け身を取り、その間に段平の柄を握り直した。 自然な流れで身体を起こすとほぼ同時に右足に全体重を掛けると、膝をバネにして一気に老人の方へステップし距離を詰める。 勢いに乗せて段平を振り下ろした結果、現在に至るのである。 「いやいや、こいつはたまげた。良いのぉ若いもんは」 闘争心むき出しの表情で睨み付ける千兵を見て老人は言った。 「あんたのお陰で、わしゃまた本気で誰かと戦いたくなったわい。……じゃが!」 木の枝で千兵の段平を払い一歩下がると、木の枝を千兵に突きつけて言う。 「じゃが、そこの嬢ちゃんが大丈夫じゃなさそうじゃぞ」
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