秘密と修行と解体新書

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小さな物乞いが話をしている最中、千兵は周りを見渡してみた。 千兵が立っている場所は、最初に出てきたドアから大分離れた道路の上であり、リリィの空気球が破裂した地点でもある。 それは珍妙な光景だった。 千兵の胸ほどの高さから上に有るものは、広場の周りを取り囲む木と事務所へ続く廊下のある建物以外何もなかった。 物乞いの住まいであろうトタンで囲んだ小屋も、元あった屋根と壁の一部がある高さで消えていた。 暗くなっても道を照らすように点々と立っていた街灯もある高さから上は無くなり、ただの鉄柱となっていた。 それから千兵の視線は、なぎ倒された草花のように横たわる物乞いの集団に移る。 破裂地点からさほど遠くない場所にいた数十人のまとまりが、元いた場所から10メートル程も動いていることが、空気球の破裂の威力の大きさを物語っていた。
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