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その物乞いは丁度千兵と同じくらいの背丈と体つきをしている。
距離が離れていてかつ他の物乞い同様フードを深く被っているため顔は伺えないが、どことなく陰鬱な雰囲気を醸し出しているのを千兵は感じ取っていた。
それぞれ互いに、近づいたり遠ざかったり何か言うわけでもなく、ただ黙ってしばらく睨みあいが続く。
「あいつと関わるのは止めとくんじゃ」
不意に老人が肩に手を置いて囁いた。
それと同時に、こちらを見ていた物乞いも背を向けた。
千兵はそれでも睨み続ける。
「悪いことは言わん、じゃから止めておけ」
囁きかける老人の声色が冷やかになり、肩に置かれた手に力がこもる。
「うー……」
千兵は眉間に皺を寄せながらもしぶしぶ視線をそらす。
*
「お二人さーん!こっち来て!」
小さな物乞いが千兵とリリィを呼ぶ。
「まぁ一人で二人なんだけどね、千兵」
「む」
「この先に迎えの車を呼んであるから、それに乗るよ!ついてきて」
嬉々とした表情で、小さな物乞いは林の中へと繋がる道を先導した。
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