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スクラップだらけの林の道をしばらく歩くと、車が一台、ボロボロで薄汚いビニールシートをすっぽり被って置かれていた。
「さて、到着ですよ。お二方」
小さな物乞いが振り返り、フードの下から可愛らしい笑顔を覗かせる。
「」
……え?
何て言ったっけ?
「」
誰の言葉?
景色が歪む。
人が、物が、俺の姿が歪む。
記憶が歪む。
そして、無意識のうちに視界も思考も真っ暗な闇に包まれた。
*
「起ぉぉぉきろぉぉぉぉ!」
聞き慣れた大声と背中の痛みで、うつ伏せの体勢で千兵はようやく目を覚ました。
途中で寝てしまったのか……
何か大事なことが思い出せてないような……
千兵の中で起きたての気だるい気分とさっぱりしない感情が入り混じり、歯痒さに似たような苛立ちを感じた。
「おーい!起きろってばー!」
耳元で大声を出し背中をばふばふと叩くリリィを気にしてかしないでか、千兵は寝返りを打って仰向けになった。
「起――ぐぅっ!ちょ……千へ……く、苦し……」
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