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少し待つと書類を持った大柄で小太りな男が現れ、向かいの椅子に座った。
「あなたが入国希望者ですね。我が国へようこそ」
ポマードか何かで塗り固めたのであろう、光沢とまとまりのある短い髪を持つ男は、青年の顔を覗きこむようにギラギラした目で見つめながら、恭しく歓迎の意を述べた。
それに対して青年は、表情にこそ出さないもののどこかつまらなさそうな顔で頷く。
「では旅のお方、これより入国手続きを行います」
男はそう言うと、一枚の紙と油性のボールペンを机に置き、青年の前へ滑らせた。
紙の一番上には『入国手続書』と黒い太字で書いてある。
それに続き、細々と規定や条例に基づくなんやかんやが書かれてあり、一番下にはサインを記入する欄が一つだけ設けられていた。
青年は紙をほんの少し眺める。
と、その時
(もう一枚貰って!)
見えない者の声が、コソコソと千兵に言いかける。
「……む」
表情を変えないまま、青年は返事をするように呟いた。
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