秘密と修行と解体新書

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「ホッホッホ。気づかないお主らが悪いんじゃよ」 「体術……ですよね? だとしたらお爺さんは――」 「そうじゃ。お察しの通り、儂は武族の生まれなんじゃよ。昔はよく――」 「あらあら、爺の昔話は真面目に聞いていると一週間は棒に振る羽目になりますよ?爺の事はお構い無く、朝食でもお食べになりましょ」 サバサバと会話を途切らせると、金髪の少女は手を叩き、だだっ広い食事会場にその音を響き渡らせた。 スーツを着た十数人の男女が部屋に入り、せかせかと食器を準備した。 陶器製の平たい数枚の皿の上には、1枚にこぶし大のロールパンが2つにバターが2切れ。 違う1枚にハムエッグやら千切りキャベツやらがこんもりと盛られた。 側には底が深い器があり、そこには玉ねぎ入りのスープが湯気を伴って注がれる。 丁寧に畳まれたナプキンの上には、銀のナイフとフォーク、スプーンが規則正しく並んで置いてある。 それぞれのテーブルにそれらが準備されると、スーツを着た人々はせかせかと部屋を去っていった。 部屋に静寂が戻ると、金髪の少女が険しい顔をし、不意に大きな声で言う。 「手を合わせて!」 ぱぁん、と音をたてて、老人と金髪の少女は顔の前で手を合わせた。 目の前に出された美味しそうな料理をしげしげと眺めていた千兵とリリィは、不意を突かれて驚き、両者を見る。 「この国での食事作法です。動きを真似するだけで構いませんよ」 表情を一転させ、優しく微笑みながらそう言う少女に促されて千兵とリリィも手を合わせる。 「頂きます!」 「頂きまぁす!」 少女の声に続き、老人の声。 後に一礼。 「……い」 「いただきまぁっす!」 千兵とリリィもそれに倣い、ぎこちなく礼をした。
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