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「……はいはい、何の事かよく事情は分かりました」
顔の脂とポマードでテカテカ輝く頭を上下に振って大げさに頷き、男は立ち上がる。
「君の後ろでコソコソ隠れてるその女の子も入れてやりたいって言いたいんでしょう?旅人さん」
男は青年の左肩へ手を伸ばす。
「さっきからチラチラ見えてるんですよ……ねっ!」
「痛った!」
男は青年の背後から、金髪の束を引っ張り出そうとする。
「いいいい痛い痛い痛い!離してよ!」
毛束の正体は、青年の背後から苦痛の表情を浮かべて引っ張り出された。
少女だった。
毛束の正体は長い金髪をポニーテールにまとめたもので、ぱっちりしたエメラルドグリーンの瞳の目には涙を浮かべている。
ピンクの半袖Tシャツを着ていた。
「離してっていってるじゃんか!いくら初対面の人が良さそうなオッサンだからって、容赦しないよ!」
怒り心頭の少女の言葉は届かなかったらしく、男はまだ引っ張り続ける。
「おい、国外の浮浪者か何なのか、どこのお嬢ちゃんだか知らねえけど、ここはお嬢ちゃんがお遊びで勝手に入って良いところじゃあないぞ。今すぐに出てってくれ。こっちは仕事中なんだ。出てい――」
男は思わず喋ることを止め、同時に少女の髪を引っ張ることも止めた。
止めざるを得なかった。
少女の髪を引っ張る手首を、青年がありったけの力で握りしめたからだ。
「ぎぃぃぃぁぁぁ!」
「リ……。は……!」
鋭い目付きで男を睨みながら、青年は威嚇するように言う。
男の手首の骨がメキメキ鳴ると、青年は握ることをやめた。
男の手首から先は鬱血して紫色になり、力なくだらりと指を下に向ける。
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