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出版社、というものは、意外に時間の融通がきく職場だ。仕事がたてこんでいなければ、今日のように長めの昼休みをとれることもある。
リカは都内の大手の広告代理店に勤めている。リカの会社までは車で10分かからない。なんでもない距離だ。さすがに海には連れて行けないので、少しドライブしてみようかと思っている。
リカのオフィスは3階にある。車を停めて受付で手続きをとると、すぐリカが現れた。
「早かったのね、秀」
クリーム色のスーツを着たリカが近づいてくる。少し髪が伸びた。まっすぐできれいなストレートが肩につきそうだ。
僕は軽く右手をあげて応える。
「海は、ムリだけど」
目の前のリカに向けて言った。
「ドライブじゃ駄目かな」
「………いいわ」
数秒後、リカが答えた。
「その代わり、家に寄ってくれる?」
「いいけど、なんで」
リカは少し微笑んだ。
「英治に渡すものがあるの」
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