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【マトン・ラード基地
第四小隊兵舎
深夜3:15】
アルゴリズ戦が終り、
無事に帰還した兵士達は
疲れも相俟って静かな…
『ンゴゴ~』
『ZZZ』
『もう食えない…』
失礼。
いつもよりも
少し賑やかな深夜を
過ごしている。
殆どの兵が眠りに
着いている中、
一人だけ眠れぬ男がいた。
いびきや寝言のせいではない
それくらいはいつもの事
今日はいつもより
賑やかではあるが、
そんな事を気にして
眠れない夜を過ごす事はまずない。
「チッ……
散歩でもしてくるか…」
狭い簡易ベッドの中で
幾度となく寝返りをうったが
睡魔は微笑まなかった。
諦めて静かに部屋を出るのは…
グェンデル・エングッリ曹長
第四小隊の切り込み隊長で
副隊長と言っても良い程
他の兵の信頼を集めている
歴戦の歩兵だ
数々の激戦を
くぐり抜けて来たせいか、
その顔には無数の傷が
刻まれているが
それが強さの証のように見える。
皆、グッスリ寝ていて
起きそうもない兵舎内だが
やはり前線で戦う兵達
大きな音を立てると
反射的に起きてしまうかもしれない
そこまで考えたのか
それとも自然的な反応なのか
音を立てずにドアを閉め
足音が響かないように
注意して出て行くのだった。
兵舎を出たグェンデルは
葉巻をくわえて
大きく伸びをする
何気なく空を見上げると
青白い月が美しく輝いていた
「ま、こんな月が見れるなら
ちっとくらい眠れないのも有りか」
苦笑しながら
広いグラウンドを
ゆっくりと歩き出す。
兵舎内とは違い
外は静かだった
前線とは言っても
今は膠着状態
昼夜問わず
ドンパチしている訳ではない。
たまには静かに夜の散歩を
楽しむのも良いかもしれない
………それが軍の規律に
反しなければだが。
それはともかく。
月の光に導かれるかのように
グェンデルの足は
グラウンドを横切り
申し訳程度に
生えている木の元に
向いていた。
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