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目的とした木の元には
先客が来ていた。
その人は、
エリクソン・マクスウェル少尉
第四小隊に来たばかりの
歳若き隊長。
着任して直ぐの挨拶で
『誰一人死なせない』
と無謀な宣言をし、
アルゴリズ戦では
ハッタリと
悪戯としか思えない
罠で帝国兵達を
散々おちょくった上で退けた。
ある意味で常識の通じない
非常識の塊のような隊長。
しかし、その実力は
認めざるをえない。
逃げ足の速さは折り紙付き
魔法に関する知識も充分
『誰も死なせない』と
言ったのは、
ハッタリではないのではないか。
着任当初は、
今までのように
貴族の名前だけで
士官になった
お坊ちゃまと思い反抗したが
今ではそんな気はない。
それに話を聞くと、
エリクソンは貴族ではない
と言っていた。
だからと言って、
それが尊敬に
繋がるかは別だが
共に戦う事に
抵抗はない。
………いや。
多少の抵抗はある。
何故ならエリクソンは、
事あるごとに
グェンデルを悩ませ
過大なストレスを
与えるからだ。
そのせいで
アルゴリズ戦では
胃痛と頭痛に
悩まされた。
まぁ、お返しとばかりに
ブチ切れて、
剣を片手に
半ば本気で
隊長を殺そうと
追いかけ回した事多々。
つまりはおあいこだろう。
そんな隊長が
昼間の飄々とした
雰囲気を無くし、
どこか悲しげに
空に浮かぶ月を見ている。
声をかけるか
悩んでいたが、
先に見つけられてしまった。
「どうしたんだい?」
「いや……。
寝付けなくてな。
お前もそうなのか?」
「私?
ちょっと眼が覚めたら
月が美しく見えてね。
つい出て来てしまったよ。」
座ったらどうだ、
と微笑みながら
自分の隣を
指し示す。
その笑みは、
昼間見せていた
飄々としたものとは違い
月の光が消えたら
エリクソンまで
消えてしまうのでは
ないかと思える程、
儚く、幻想的に見えた。
「曹長?」
自分を見つめて
動こうとしないグェンデルを
小首を傾げて見返すエリクソン。
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