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――鏡なんか見るんじゃなか。お前はうつくしい。それは自分のかおに自信が持てない憐れな連中がやることじゃ。よいか、絶対に鏡なんか覗くんではないぞ。
私の家は変わっていた。
洗面台にも、トイレにも、部屋にも……鏡がなかった。
だから私は、自分のかおを知らない。
街中を歩く時でさえ、私は神経をつかう。大きなガラス張りのある店などには近付けないからだ。
鏡は至る所に散在している。それを避けるのは容易ではない。だが私はそれを強いられた。
というより、今は自分のかおを見るのがたまらなく怖い。だから鏡を避けるのだ。
――お前はうつくしい。鏡なんか見る必要ないんよ。
子供の頃から私はそう言われてきた。それを信じたい。
だけど……。
私は本当にうつくしいの?
時々、眠れない夜がある。
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