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これはまだアリスが小さい頃…―。
ざー ざー…
外は大雨。
赤い長靴を履いて赤い傘をさした女の子は
水溜まりを踏みながら歩く。
そこに1匹の猫がいた。
灰色の猫は
雨にうたれ、ずぶ濡れだった。
女の子はゆっくりと猫に近づく。
猫も女の子に近づく。
「寒かったでしょ?こんなに濡れて…」
可哀想、と
女の子は自分の服がよごれるのも気にせず
猫を抱き上げた。
猫はにゃあと鳴き、
ゴロゴロと喉をならす。
「貴方はお口が三日月なのねー」
女の子はまじまじと
猫の顔を見る。
猫もにゃあと返事をした。
「お家は何処なの?」
猫はにゃあとまた一鳴き。
「お家…ないの?」
猫は女の子の腕の中ですりより、ゴロゴロと喉を鳴らした。
まるで、離れたくないみたいに
うーんと考えこんで
女の子は口を開く。
「そうだっ相合い傘しよっかあ」
にゃあと猫も同意。
にっこりと微笑む女の子を見て
猫の三日月が深くなった。
家に着いたが
猫はなかなか離れてくれなかった
ちょっと待ってて!
何を思ったのか女の子はバタバタと家の中に入り、
赤い紐と鈴を持ってきた。
「これね、猫さんにあげる」
女の子は赤い紐に鈴を通し、猫の首で結んだ。
にゃあ にゃあ
また、猫の三日月が深くなった。
猫は満足したのか、また雨の中に戻って行ってしまった。
ざー ざー…
雨は降り止まない。
ざー ざー…
その中に紛れて
…ちりん…ちりん
鈴の音が聞こえる
鈴を通しているのは
灰色の
ローブを着た
三日月口の男だった。
「アリス」
猫の呟きが
雨の中 響いた
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