木塊

2/2
前へ
/5ページ
次へ
「うわぁぁー……っ」 絶叫と共に、布団を退かして跳び起きる。 額や衣には、べっとりと脂汗。 肺腑を宵の風で満たして一度全て吐き出せば、いくらか気分も落ち着く。 男は傍に置いた手ぬぐいで汗を拭うと布団を畳んで、障子を開けて外へ出た。 虫たちの声、梟の柔らかな歌。木々のざわめき。 耳の中で混じり溶け合うそれらもまた、気分を少しは落ち着けてくれる。 漆黒の空にぽっかりと浮かぶ月明かりを頼りに、宵の道を歩いた。 井戸で水を汲み上げ、手に口、顔と、体を清めていく。 気分が完全に落ち着いてしまわぬうちに――夢の残像がその瞳に焼き付くうちに、作業に取り掛からなければならぬ。 男は立ったまま木に寄りかかり、そっと目を閉じる。 そしてこれから掘るものを、静かに思い浮かべた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加